北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

数年ぶりに立ち会った,破産審尋手続

多額の負債・借金を抱えて苦況に陥った経済的破綻者の
救済・更生を図る制度。これが,自己破産の制度だ。

最近は,殆ど依頼を受けることがなくなったが,
昨年,近所の公設市場で魚屋を経営していた,魚屋のニーちゃんの紹介で,
肉屋のオッちゃんの自己破産申立ての代理を頼まれた。
そして,今日(9月14日),
数年ぶりに破産手続における「審尋」手続に立ち会った。

破産の「審尋」というのは,
本来,破産者が「免責」を受ける前段階として,
裁判官から事情聴取を受ける手続だ。

今日の破産審尋手続は,
私がかつて司法修習時代に経験した破産審尋手続とは,様変わりしてしまっていた。

30年前の大分地裁民事部では,勿論,破産係なんてものはない。
地裁民事1部に修習生として配属された私は,
裁判官室で,判決書の起案をしていると,書記官が裁判官室に入ってきて,
「部長,まもなく破産審尋の時間です。」といって部長を呼びに来たことがあったので,
「部長,私も見学させてもらっていいですか?」と尋ねると,
H部長(後の京都大学法科大学院教授)は,
「いいよ。でも,つまんないよー。」と言われたが,
私は,修習ノートをもって,部長に付いていった。

当時は,文字どおりの「審尋」手続で,
会議室のような小部屋に,破産者が一人ずつ個別に呼び出され,
記録を手元においた部長から,個別にいろいろ聞かれていた。
「なんで,こんなに借金したの?」
「これからどうやって,暮らしを立て直すの?」等々,
「へえ,破産審尋って,こうやってやるのか。」と結構勉強になった。

ところが,今日の「破産審尋」はどうだったか。

数十名の破産者が,1室に全員集められ,
まるで,免許停止になった道交法違反者が,運転免許試験場で講習を受けるような感じで,
裁判官からいろいろ訓告がある。まさに「集団審尋」だ。

こんな具合だった。

まず,真面目そうな女性裁判官が集会室に現れて,話し始める。
「皆さんの借金は,現在,支払義務があると思いますか?,それとも破産決定を受けたことで,もう支払義務はないと思ってますか?」と問いかけ,破産者らをみわたした後,
「今の時点では,まだ,債権者から請求があると支払わなければなりません。
 債権者から請求を免れるためには,『免責』という手続が必要となります。
 簡単にいいますと,『免責』によって,はじめて『借金がチャラになる』のです。」

女性裁判官が口にした『借金がチャラになる』という俗語に,思わず苦笑してしまったが,
破産者たちは,結構,真面目に聞いているようで,
実は,裁判官の話を殆ど聞いていない。多分。・・・誰も笑わないからだ。

それでも,女性裁判官は,
数十名の破産者に向かって,真面目に語りかける。
「皆さんが,裁判所に提出された破産申立書の陳述書に書かれたことは覚えてますよね。
 何処か訂正したいところがありますか?」と。
(私の内心)「そんなこと,いちいち覚えいるわけないじゃんか!」
「裁判官は,こんな多人数の中で,『はい,あります!』と手をあげる破産者がいる,とでも思っているのだろうか?」と,
思わず苦笑しながら,女性裁判官の審尋手続を黙って傍聴している。

さらには,女性裁判官は続ける。
「あなたがたは,今後,二度とこのようなことにならないように決意されましたよね,
 そのために何が必要だと思われたか。そのことを陳述書に,どのように書かれたか,覚えてますか?」と,
破産者らに語りかける。
もしあてられたら,私の依頼者など,きちんと答えられるのか危ういので,ヤバイなあと思いつつ,
ここで,「あなたは,何を決意されて書きましたか?」などと聞いて,誰かを
当てるかな?と思ったが,女性裁判官は,誰にも当てなかった。
多分,当てても答えられない可能性があり,聞いても無駄だということを裁判官も知っているからであろうか?
「『二度と,借金をしない。』とか,『家計簿をつける』とか,『欲しいモノは,お金を貯めてから買う。』とか,『お金が必要になったら,家族に相談する』とか,いろいろ書かれましたよね。」と裁判官が真面目に誘導的に語りかけているのに,
私の依頼者は,私の横で,ウツラウツラしている。
『コラッ!,起きろ!!』と注意したいところを,グッとこらえ,
「緊張感のない」破産審尋手続が何事もなく,終わった。
やれやれ。