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中曽根康弘元首相の死去報道に思う

昨年末,中曽根元首相の訃報が,各新聞社の第1紙面に掲載されていた。

 

任期が長かったせいもあり,いろいろ話題の多い大政治家だったが,朝日新聞も,さすがに故人を貶す内容のことは書いていない。
 例えば,中曽根首相は,「黒人は知的水準が低い」,「日本は単一民族」,「女の子が書いた文章だから」などの差別発言を発したことでも有名だったが(Wikipedia),このような悪評については,触れられていない。今なら,某議員らに「レイシスト」などと名指しで批難されるところであろうが・・・。

このような中曽根首相の差別発言に対し,
最も激しく噛み付き,反発された人物の一人として思い出されるのは,大沼保昭センセイだ。

曰く,
中曽根首相マイノリティ差別発言は,…,自分の無力も含めてなんとも情けなく,恥ずかしいことはあった。私を憂鬱にさせているのは中曽根発言だけではない。右発言(注:「黒人は知的水準が低い」を指す。)を日本人記者団はほとんど問題にしなかった。米国で問題化されれ後大勢は問題を『マイノリティ差別発言』としてでなく,『知的水準発言』という見出しに象徴される発想でとらえていた。」,「中曽根発言は,日本社会全体が有している単一民族神話をいたって正直なかたちで表明したものにすぎない。」,「中曽根発言が引き起こした波紋は,首相の陳謝で外交的には決着がついた。しかし,根本的な問題は,『日本に少数民族はいない』というような発言を生む思い込みにある。」,「中曽根内閣は,日本の民族的少数者の権利と社会的・経済的地位を改善する立法的・行政的措置をとるべきである。在日韓国・朝鮮人やアイヌ等に対する厳しい就職差別を打破するため,民族的少数者雇用促進法を制定し,企業や公共体に一定割合(たとえば1パーセント)以上の民族的少数者の雇用を義務づけることもそのひとつである。…」と(1986年11月13日・朝日新聞夕刊,大沼保昭『倭国と極東のあいだ』所収)。

が,それにしも,大沼センセイが如上の論陣をはった時代から,半世紀足らず

現在の日本社会は大きく変転した。

「日本がどれほど物理的・心理的に門戸を閉じ続けようとも,未来永劫『単一民族国家』を維持できるものではないだろう。」という大沼先生の予言は的中したが,
「ある日突然『外圧』により大量の異民族労働者や難民を受け入れ,心理的準備がないままに社会的混乱を招く」という事態は,今のところ「杞憂」に終わったように思われる。

 『外圧』などなくても,今や,コンビニなどでは,外国籍の店員が,外国籍の顧客と問答する光景もめずらしくなくなってきたからなぁ・・・。