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続々・円空仏の真贋「府中市美術館の責め方」
- 2024-09-28
【これまでの経緯・概要】
地方自治体が設営する(つまり公立の)「府中市美術館」が本年3月~5月に開催した「ほとけの国の美術」展において、「円空仏〈真作〉」として展示した仏像のうち1体〈聖観音菩薩立像〉について「偽作」の疑いが濃厚であり、円空学会理事長の方からその旨の疑義が申し入れられたにもかかわらず、府中市〈同市美術館の学芸員〉の方では、「見解の相違」であるとして居直った。
そこで、先のブログで紹介したとおり、私〈円空学会・会員〉の方から、府中市に対し情報公開条例に基づいて、同市が上記「円空仏」について、「真作」と認めた根拠資料を情報開示するよう請求したところ(ブログ「円空仏の真贋『府中市美術館の責め方』」)、「該当文書なし(不存在)」などという「木で鼻をくくった」ような却下決定が送られてきた。このため、私としては、「けしからん」という思いから、先般、上記条例(行政不服審査法)に基づいて、イヤミの審査請求を行った(ブログ「続・円空仏の真贋『府中市美術館の責め方』」)。
【その後の推移】
その後、さすがに府中市の実施機関もあわてたとみえて、このほど、府中市の方では、当初の却下決定を修正して、「聖観音立像に関する調査メモ、写真」、「聖観音立像に関する調査後データ・まとめ」を一部情報開示してきた。
その結果、上記仏像〈聖観音立像〉に関して判明したことについて、私見を書いておきたい。
私としては、「円空学会だより」に寄稿された小島理事長の論考の内容と、そこに掲載された上記仏像〈聖観音立像〉の絵〈下掲・左〉から、円空仏の「真作」ではありえない、「見解の相違」というのも円空学会に対し無礼ではないかと思ったことから、府中市に対しては、かなり強い態度に出てしまった。
だが、このほど府中市から送られてきた、上掲〈聖観音立像〉(上掲・右)に係る複数の写真を一見すると、「見解の相違」などと、つっぱねたくなる学芸員の気持ちも分からないではないことが解った。
しかしながら、それにもかかわらず、私は、上記〈聖観音立像〉(上掲・右)については、間違いなく「偽作」だと思っている。
直観的な理由は、二つある。
第1に、「頭髪」に難がある。
上記〈聖観音立像〉の頭は、「怒髪」が刻されている。しかしながら、円空仏で「怒髪」が見られる像は、典型的には「護法神」であるが、そうでない場合は、殆どが垂迹系・修験道系の像である(例えば、蔵王権現、八大龍王等)。これに対し、一般的には、聖観音像の頭部で描かれるのは、「宝髻(ほうけい)」が殆どであって、せいぜい「肉髻(にっけい)」であり、管見では、「怒髪」が刻された〈聖観音像〉を見たことがない。
第2に、「躯体のバランス」を欠いている。
円空の立像は、上掲の中・右のように躯体における左右のバランスが確保されており、安定感がある。ところが、上掲の左〈聖観音立像〉の場合、向かって左側が抉られたように食い込んでおりバランスが悪すぎる。
したがって、上掲〈聖観音菩薩立像〉は、「偽作」の疑いが依然濃厚である。
ところで、今般の府中市の一部開示決定では、なお、「個人情報、事業活動情報、財産等の保護情報」を理由に、一部非公開が維持されたが、このような決定は適切なものであろうか。
確かに「所属」等、個人識別情報を不開示とすることはやむを得まい。
しかしながら、「事業活動情報、財産」保護の趣旨が不明であり、「伝来」部分を黒塗りとした一部開示決定には到底納得できない。そこで、今回の一部開示決定に対しては、「伝来」部分の黒塗りの当否について、審査請求を申し立てることにした。
〈公開資料抜粋〉
以上のようなことを考えていたところ、府中市美術館から送られてきた資料一式をお届けしておいた、円空学会理事長・小島先生から御礼のメールをいただいた。そこにも、詳細な御意見が書かれていた〈左右のバランスに関しては。小島先生も同感のようだ。〉。小島先生におかれては、いずれ詳しく論文にされるのであろうと思った矢先、本日、円空学会から論文集『円空研究―37』が送られてきており、そこに小島理事長の「円空仏の真贋」と題する論文が掲載されていた。後ほど、拝読させていただきます。
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