北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「司法試験」の実情 ― 法科大学院制度の罪 ―

先般,2017年9月12日,法務省は,今年度の司法試験の合格者を発表した。
受験者数5967名に対し,合格者数1543名(合格率25.86%)である。
ザクッといえば,約6000名が受験し,略1500名が合格したということである。

合格率は,略25%受験者4名に対し合格者1名の割合)ということになる。
 
私が(旧)司法試験に合格した平成元年の合格実績と比較するのは,
もはやナンセンスかもしれないが,参考値として掲げておくと,

平成元年当時(「司法改革」という名の蛮行が実施される前)は,

受験者数2万1308名に対し,合格者数506名(合格率2.32%)である。
ザクッといえば,約2万名が受験に挑み,略500名が合格した。

合格率は,略2%受験者50名に対し合格者1名の割合)である。
つまり,「司法改革」の必要が喧伝されていた往年(“我々の時代”)と対比した場合,
法曹志望者の数は,「改革前」の「3分の1」未満へと,著しく減る一方で,
弁護士の数を,毎年,かつて略400名/年に対し,約3倍ずつ増やしていくことになった,と理解される。
(裁判の事件数は,むしろ減っているので,
 裁判を扱わない=扱えない弁護士を蔓延(はびこ)らせることになるのは必定である。
 これからの弁護士は,どうやってメシを食っていくのであろうか?)

朝日新聞が「合格状況」を分かり易く表(以下「合格状況表」という。)にしているので,
引用しておく。

司法試験合格率1位に輝いたのは,京都大学法科大学院の50%であった。
受験者数222名中で,111名の合格者を輩出しているが,
逆にいわせてもらえば,その多くは4年制の大学法学部で,
法律を学んだ後,3年もの専門教育をインテンシブに施されながらも,
111名は合格できなかった,ということである。
「トップレベルの」法科大学院で,
「トップレベルの」教授陣が「専門教育」を施しても,
― しかも,われわれの世代の合格率に比べ,格段に(10倍以上の合格率で)平易に
  合格できる受験状況でありながら,―
なお,半分は合格できなかった,のである。

一方,

「法科大学院を経ずに受験資格を得られる予備試験の合格者数・合格率はどうか?
今年の予備試験組は,合格者数290名,合格率にして72.50%。
法科大学院・最高峰の京都大学法科大学院を,合格者数・合格率ともに,
「完全に凌駕」している。

このことは一体,何を意味しているか?

そう, 「法科大学院制度など,イラナイ!!」ということなのである。

ところで,朝日新聞製作の「合格状況表」(上掲)は,
(合格率で順位をつけるならば,「予備試験」組をトップにもってくるべきところを
 最下位にもってきているところが,「イデオロギー」的であるが,
 そのことはひとまず措くとして)

「大相撲の星取り表」よろしく,

「学生(法科大学院生)の募集を停止した」法科大学院と
「(学生:法科大学院生の募集の)停止を公表した」法科大学院
〈廃止を含む〉をで表示している。
実に35個の印がついており,35校もの法科大学院が『鬼籍』に入ろうとしている
このおぞましい数の群をみただけで,「法科大学院制度」が「大失敗」であったことが
一目瞭然であるが,
さらに「罪深い」のは,いうまでもなく,
朝日新聞製作の「合格状況表」の「大学院名」は,「法科大学院」であって,
「大学法学部ではない!」ということである。
「法曹の途」を「選択肢の一つ」として法学部に進学した大学生ではなく,
専ら「法曹資格の獲得」を「唯一の目標」として,多額の学費をつぎこみ,
多大な時間をつぎ込んできた(―場合によっては,一旦就職していた職業をなげうった―)
大学院生なのである。
だたひたすらに「法曹養成」に特化した「教育」を施す「法曹養成機関」(法科大学院)
という「プロセス」に組み込まれた法科大学院生の数に着目してもらいたい。

「撤退宣言」という名の「敗北宣言」をした「陸橋」じゃなかった,
「立教」こと立教大学法科大学院を例にとれば,
「105名」もの法科大学院卒業生に対し,
「法曹資格獲得」の「夢」を与えつつ,多額の「学費」を巻き上げておきながら,
合格者は,わずか9名である。
あなたがた教員ら及び法科大学院当局は,残り96名もの卒業生に対し,
どのような将来の展望をもたせられる,といわれるのか??!
彼ら・彼女らの将来に対し,どのような責任をもつことができる,といえるのか??!
「儚い夢」を与えつつ,すべて「自己責任だ!」といわれるのか??
(何故,堂々と「法科大学院制度が誤っていた」と宣言しないのか?!!

同様の例として,
地元愛知の「南山」大学法科大学院
まだ,「撤退宣言」という名の「敗北宣言」には至っていないようであるが,
「48名」もの法科大学院卒業生に対し,合格者はわずか4名。
残り44名の法科大学院卒業生を5年以内に司法試験合格に導くのはもはや絶望的であろう。

であれば,「法科大学院制度の破綻」といった事態を率直にみとめ,
二度と,このような大量の「犠牲者」を輩出させないためにも,
「法科大学院制度自体の廃止」に向けて,
今こそ,「失敗経験」を語るべきときではないだろうか。

法曹志望者層が,前記のとおり3分の1以下に激減し,法曹界が劣化したことは,歴然とした事実であって,
「少数の」「エリート校(法科大学院)」が生き残ればいい,
といった問題では断じてない!!!
今こそ,「法科大学院の名」において,
「法科大学院制度の失敗」に対する「自省」「悔悟」の意を表明することこそが,
「犠牲者」となった,あるいは,将来「犠牲者」となる蓋然性の高い卒院生らに対する
せめてもの「償い」ではないだろうか。