弁護士のブログBlog
「司法試験」の実情 ― 法科大学院制度の罪 ―
- 2017-09-15
先般,2017年9月12日,法務省は,今年度の司法試験の合格者を発表した。
受験者数5967名に対し,合格者数1543名(合格率25.86%)である。
ザクッといえば,約6000名が受験し,略1500名が合格したということである。
合格率は,略25%(受験者4名に対し合格者1名の割合)ということになる。
私が(旧)司法試験に合格した平成元年の合格実績と比較するのは,
もはやナンセンスかもしれないが,参考値として掲げておくと,
平成元年当時(「司法改革」という名の蛮行が実施される前)は,
受験者数2万1308名に対し,合格者数506名(合格率2.32%)である。
ザクッといえば,約2万名が受験に挑み,略500名が合格した。
合格率は,略2%(受験者50名に対し合格者1名の割合)である。
つまり,「司法改革」の必要が喧伝されていた往年(“我々の時代”)と対比した場合,
法曹志望者の数は,「改革前」の「3分の1」未満へと,著しく減る一方で,
弁護士の数を,毎年,かつて略400名/年に対し,約3倍ずつ増やしていくことになった,と理解される。
(裁判の事件数は,むしろ減っているので,
裁判を扱わない=扱えない弁護士を蔓延(はびこ)らせることになるのは必定である。
これからの弁護士は,どうやってメシを食っていくのであろうか?)
朝日新聞が「合格状況」を分かり易く表(以下「合格状況表」という。)にしているので,
引用しておく。
司法試験合格率1位に輝いたのは,京都大学法科大学院の50%であった。
受験者数222名中で,111名の合格者を輩出しているが,
逆にいわせてもらえば,その多くは4年制の大学法学部で,
法律を学んだ後,3年もの専門教育をインテンシブに施されながらも,
111名は合格できなかった,ということである。
「トップレベルの」法科大学院で,
「トップレベルの」教授陣が「専門教育」を施しても,
― しかも,われわれの世代の合格率に比べ,格段に(10倍以上の合格率で)平易に
合格できる受験状況でありながら,―
なお,半分は合格できなかった,のである。
一方,
「法科大学院を経ずに受験資格を得られる予備試験」組の合格者数・合格率はどうか?
今年の予備試験組は,合格者数290名,合格率にして72.50%。
法科大学院・最高峰の京都大学法科大学院を,合格者数・合格率ともに,
「完全に凌駕」している。
このことは一体,何を意味しているか?
そう, 「法科大学院制度など,イラナイ!!」ということなのである。
ところで,朝日新聞製作の「合格状況表」(上掲)は,
(合格率で順位をつけるならば,「予備試験」組をトップにもってくるべきところを
最下位にもってきているところが,「イデオロギー」的であるが,
そのことはひとまず措くとして)
「大相撲の星取り表」よろしく,
「学生(法科大学院生)の募集を停止した」法科大学院と
「(学生:法科大学院生の募集の)停止を公表した」法科大学院
〈廃止を含む〉を●で表示している。
実に35個の●印がついており,35校もの法科大学院が『鬼籍』に入ろうとしている。
このおぞましい数の●群をみただけで,「法科大学院制度」が「大失敗」であったことが
一目瞭然であるが,
さらに「罪深い」のは,いうまでもなく,
朝日新聞製作の「合格状況表」の「大学院名」は,「法科大学院」であって,
「大学法学部ではない!」ということである。
「法曹の途」を「選択肢の一つ」として法学部に進学した大学生ではなく,
専ら「法曹資格の獲得」を「唯一の目標」として,多額の学費をつぎこみ,
多大な時間をつぎ込んできた(―場合によっては,一旦就職していた職業をなげうった―)
大学院生なのである。
だたひたすらに「法曹養成」に特化した「教育」を施す「法曹養成機関」(法科大学院)
という「プロセス」に組み込まれた法科大学院生の数に着目してもらいたい。
「撤退宣言」という名の「敗北宣言」をした「陸橋」じゃなかった,
「立教●」こと立教大学法科大学院を例にとれば,
「105名」もの法科大学院卒業生に対し,
「法曹資格獲得」の「夢」を与えつつ,多額の「学費」を巻き上げておきながら,
合格者は,わずか9名である。
あなたがた教員ら及び法科大学院当局は,残り96名もの卒業生に対し,
どのような将来の展望をもたせられる,といわれるのか??!
彼ら・彼女らの将来に対し,どのような責任をもつことができる,といえるのか??!
「儚い夢」を与えつつ,すべて「自己責任だ!」といわれるのか??
(何故,堂々と「法科大学院制度が誤っていた」と宣言しないのか?!!)
同様の例として,
地元愛知の「南山」大学法科大学院。
まだ,「撤退宣言」という名の「敗北宣言」には至っていないようであるが,
「48名」もの法科大学院卒業生に対し,合格者はわずか4名。
残り44名の法科大学院卒業生を5年以内に司法試験合格に導くのはもはや絶望的であろう。
であれば,「法科大学院制度の破綻」といった事態を率直にみとめ,
二度と,このような大量の「犠牲者」を輩出させないためにも,
「法科大学院制度自体の廃止」に向けて,
今こそ,「失敗経験」を語るべきときではないだろうか。
法曹志望者層が,前記のとおり3分の1以下に激減し,法曹界が劣化したことは,歴然とした事実であって,
「少数の」「エリート校(法科大学院)」が生き残ればいい,
といった問題では断じてない!!!
今こそ,「法科大学院の名」において,
「法科大学院制度の失敗」に対する「自省」「悔悟」の意を表明することこそが,
「犠牲者」となった,あるいは,将来「犠牲者」となる蓋然性の高い卒院生らに対する
せめてもの「償い」ではないだろうか。