北口雅章法律事務所

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円空仏(ENKU)入門10「違和感を覚える円空仏 その1」

円空仏の特徴の一つは,口元の微笑を基調として,
仏像の顔全体が穏やかな表情をしていることである。
それゆえにこそ,円空仏も鑑賞者は,癒やされる気分になる。
具体例をあげるまでもないが,
確認のため,ザクッと図録をひろげてみただけでも,
その特徴を示す作品ばかりだ。

千光寺所蔵「弁財天」(東京国立博物館・特別展図録)

 

荒子観音蔵(名古屋市中川区)「毘沙門天」

そして,「忿怒」の形相をもつはずの不動明王でさても,
笑みを浮かべている。

ところが,私の「管見」では,
円空仏の上記特徴に反する,殆ど唯一の例外ではないか,と思われるのが,
神光寺(岐阜県関市下有知)所蔵の十一面観音である。

 

額の皺三本が横方向を向いてはいるものの,
目と眉毛がつり上がった形相は,怒っているようにも見え,
円空特有の穏やかさはうかがえない。


「好みに合わない」という理由から忘れ去りたくもなりそうなものだが,
この十一面観音は,穏やかな表情の聖観音の脇侍として位置づけられており,
かつ,異様な目をした魅惑的な護法神とセットにされていることからも,
何かを物語っているような気がしてならず,興味は尽きない。

神光寺の十一面観音にみる忿怒の形相については,
やはり残念ながら未だ「謎」であって,
その解明は,私の知識と素養では不可能に近いであろう。
ただ,唯一手掛かりになりそうなことは,

(上掲・写真につき,池田勇次「郡上郡の円空」(円空研究=5所収)から引用)

その形相に似た神像(上掲・写真)が円空ゆかりの「星宮神社」(岐阜県郡上郡美並村粥川)に遺されていることだと思われる(なお,星宮神社には,「星宮神社文書」と呼ばれる数々の円空の修法書が遺されている。この全文が載せられている絶版本「円空研究=14」は,ありがたいことに手に入れることができた。)。