北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「独居老人」の依頼者

昨年,県外・遠方に住む「独居老人」の知人から,
「郷里の家庭裁判所から遺産分割調停の通知が届いたが,どうしたらよいか。」
との相談を受けた。

事情を電話でうかがうと,親戚付き合いもなく,遠戚の方(父親の末の妹;叔母)が亡くなり, 亡くなった方には身よりがなく,これまた親戚付き合いのない(依頼者の)従姉妹にあたる方が,代理人の弁護士をつけて,遺産分割調停を申立てた模様。

「放棄した方が簡単でしょうか。」とのことであったが,
申立書を送ってもらって,権利関係を調べてみると,法定相続人が多数みえるものの,それなりの遺産があり,申立人自身も,被相続人(故人)と親戚付き合いがあったとは思われないので(居住関係,年齢差等から),
「いやいや,放棄などせず,『タナボタ』でも,もらえるものはもらってはいかがでしょうか。」と調停参加をお勧めすると,「全部一任するので,やってほしい。」という。
遠方の家庭裁判所の書記官に電話して,
「うちは,法定相続分に相当するお金がもらえれば,分割方法は,裁判所と,申立代理人の方針に全部一任しますから,よろしくお願いします。」と述べて,毎回の調停参加は全部欠席していたところ,調停が成立し,結構な金額が,申立人の代理人から,私名義の預かり金口座に振り込まれてきた。

「おおっ!,やったァ」と思って,
分割された遺産の取り分を依頼者に送金すべく,
依頼者の振込先口座を聞き出そうと,
その「独居老人」に対し,連日,何度電話するも,
電話に出てくれない。

「おかしいなァ・・・」と思いつつも,
ご子息の家庭か,嫁に出た娘さんの家庭に孫の顔でも見にったのか?
と思い,しかたなく,ご自宅に
「朗報がありますので,電話をください。」
と書いた紙をFAXしておいて,しばらく様子をみることにした。

ところが,1週間たち,2週間経っても,連絡がない。
これは,しかたがないので,
ご子息か,娘さんの住所地(いずれも,年賀状の交換だけは続いている。)に,
「お母さんと連絡がとれないので,電話するように伝えてください。」
との手紙を出そうか,・・・と思った矢先,
今日(令和3年3月23日),御本人から電話をいただいた。

「先生からのFAXを今みました。先生ね,私,1ヶ月ほど入院してました。」
「ええっ,どうして?」
「胸が痛いので,近所の内科医にみてもらったら,心電図をとってくれて,
 『心筋梗塞』でした。その場で救急車で運ばれました。
 緊急手術を受けて,そのまま入院しました。」
「そりゃ,大変でしたね。名医にあたって本当によかったですね。
 心筋梗塞で亡くなって,医療裁判になるケースは結構ありますから。」
「ありがとうございます。(手術を受けても)30%は亡くなっちゃうそうですね。」

やれやれ。
「預かり金」が「遺産」にならなくてよかった。