北口雅章法律事務所

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「タイワンザル根絶宣言」への違和感

 和歌山県が,税金を使って,野生化したタイワンザルの「断種」=「根絶」施策に乗り出し,

「ニホンザルとの交雑に歯止め」といったスローガンを高らかに謳い,
「交雑の危機からニホンザルを守る」などと賞賛する獣医師のコメントまで載せている
「朝日新聞」を読んでから,随分と時間がたってしまった。

ハア???という違和感を抱き,こんなことでいいのだろうか?
と疑問を抱きつつも,誰も何も言わず,殆ど話題にもなっていない。

しかしながら,この現象・社会的出来事の根底・背景にあるもの(純血原理主義)は,
心情的に理解できないことではないが,
「朝日新聞」が何の問題意識も示さず,全面的な肯定記事に終始しているのは,
実は,怖ろしいことではないのか?

もちろん,人間と動物では「世界が」違うとはいえよう。
しかしながら,和歌山県がやっていることは,ナチスドイツが,「ドイツ民族の優生思想」と「民族浄化」を訴えて,ホロコースト計画のもと,ユダヤ人を大量殺戮・虐待してきたのと何処が違うのか? ハンセン病患者を「断種政策」の対象としてきた旧優生保護法の根底にあるもの,差別思想・民族主義(ナショナリズム)と同種の胡散臭さ
を感じるのは私だけであろうか。

朝日新聞によれば,「調査したタイワンザルの約9割がニホンザルとの交雑種(つまり混血)」と判明したと報ずる一方で,「12年(平成24年)4月までに,タイワンザルとその交雑種計366匹を駆除した(つまり殺害=殺処分した)」というのである。
そして,タイワンザルとニホンザルを区別する外観基準は,尻尾の長さが,タイワンザルは長いが,ニホンザルは短く,交雑種(混血)は,その中間の長さになるという。
環境省の報告によれば,「タイワンザルとニホンザルの交雑個体相対尾長(頭胴長もしくは座高に対する尾長の割合)の平均値は、タイワンザルでは80%、ニホンザルでは15%であるのに対し、交雑個体では平均値43%であるが、最小16%~最大85%まで変異がみられる。交雑個体では交雑度と相対尾長の間に強い相関性が認められ、子は両親の尾長のおおよそ中間の長さの尾を持つ傾向がある。」という。 

https://www.env.go.jp/nature/intro/4document/data/sentei/mamm…/mat02.pdf

つまり,和歌山県は,サルの尻尾がちょっとばかり相対的に長いという理由だけで,
手当たり次第,サルを殺戮・殺処分にしてきたというのが実情ではないか。
「ハーフ(混血児)は,『純』国産ではない。『不純』だ!」という理由のもとに,
抹殺していくという発想は,怖ろしいものではないのか。

昔,中学時代に習った嫌な歴史の話を思い出した。
アメリカで起きた悲劇の話だ。黒人と白人が交際して,肌の白い混血児が生まれ,「白人として」育てられた。ところが,その子が「自分は白人だ。」と信じて大人になり,白人と結婚したところ,肌の黒い子どもが生まれた。結果として,「どちらかが,どちらかを欺した!」ということになる。そのような悲劇が,歴史的事実としてあったというのだ。

肌の色,尻尾の長さで,差別するような政策は,一体どのような思想・哲学によって,
正当化されるのであろうか。

池田清彦先生(早稲田大学国際教養学部教授・構造主義生物学)は宣われる。
ニホンザルとタイワンザルがとことん混血したところで悪い事は何もないし,
外来種排斥原理主義者以外に困る一般人は誰もいない。」と。
そもそも生物を移動させたり放したりするおは人間の営為であり,
人間の営為はコントロールできる。和歌山県のタイワンザルだって,もとはといえば,
地元の動物園が閉園に際して,飼育したタイワンザルを「日本の自然に」解き放った
ことが根本原因である。
これに対し,「野や川に放たれた後の生物がどうなるかは自然の営為である。
自然の営為はコントロールできないと思うべきだ。コントロールできると思うのは,
人間の思い上がりである。」と。
(以上,池田「環境問題のウソ」ちくまプリマー新書118頁以下参照)

やっぱりなあ。
「調査したタイワンザルの約9割がニホンザルとの交雑種」というのであれば,
全ての10%以下だけがタイワンザルの純血であって,
反面,ニホンザルだって,約9割は,実は,タイワンザルとの混血ではないのか。
和歌山県で,タイワンザルをみかけなくなった,ってことは,
同時にに,ニホンザルまでも大量殺戮して,サル自体を和歌山から撲滅した,
ってことではないのか。

以上のごとき問題意識の欠落した,最近の朝日新聞の記者は,思想的にも「頭が弱く」なっていないか??