北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

局部外傷による疼痛は,通常,いつまで続くか?

「外傷」(A)による疼痛と,途中から「別の病態」(B)に起因する疼痛とが競合したと考えられる場合,Bに起因する疼痛を疑わず,Bの治療措置を懈怠した医療機関に法的責任はないのか?

このような論点が問題となる医療裁判で,このほど,原審に引き続き,名古屋高裁でも,原審の事実認定が全面的に塗り替えられた上で,敗訴判決を受けた。
疼痛原因がA(外傷)だけであったなら,本件事案の場合,外傷の後,すぐにボルタレン等の強力な鎮痛剤を服用し続けたにもかかわらず,外傷から3日間も,外傷「だけ」を原因する疼痛が続くなどという事態がありえようか?
疼痛原因がA(外傷)だけであったなら,発症日の翌日以降,症状は軽快傾向を示すはずではないか?,それなのに,本件事案のごとく,2日目以降に,むしろ疼痛以外の症状(発赤,発熱等)が悪化するなどということがありえようか?
このような素人の「素朴な」疑問が,名古屋高裁では,受け容れられなかった。日間も外傷による疼痛が持続したと考えても何ら問題はないという。このように明らかに不条理な「素人判断」を前提に強権発動を受けると,現在の最高裁は,殆ど上告を受理しない関係で,患者側の訴訟当事者は,泣き寝入りせざるを得ないのが通常だ。

だが,このような「理不尽な」高裁判決で,患者が納得できるわけがない。
案の定,この医療裁判の件では,最高裁に上告して欲しいと頼まれた。
もちろん,上告受理の可能性は極めて低いが,私自身も納得できないので,さらなる上訴を引き受けることになるのだが,誰か専門家に意見書を書いてもらえないか,と考えたところ,疼痛制御学専攻・麻酔専門医のある医師の著書のことが,フト,頭に思い浮かんだ!

 

丸山一男著「痛みの考え方」(南江堂)

 

そうだ!,旭丘高校の「丸山先輩」(三重大学医学部・麻酔科教授)に相談してみよう!!と思い立ち,上記裁判事案について相談してみたところ,やはり私の感覚は間違っていなかった。「丸山先輩」によれば,「医学的には」名古屋高裁の判断の方が誤っているとのことだ。そこで,急遽,「丸山先輩」に最高裁に宛てて,原審・名古屋高裁判決を見直す方向での意見書を書いてもらった。

こうなると,有能な調査官に当たるかどうかが運命の分かれ目になりそうだ。
(ちなみに,私の先の最高裁・労災判決のときの調査官は,林史高判事だった。)

 

ここで,ブログ読者にクイズ。

丸山一男著「痛みの考え方」(南江堂)の表紙で描かれている,
三人の男・掘削工事人は,「K+(カリウム)」の堤防を掘っているようだが,誰だかわかるか?

 

ヒント:「痛み」は,Na+(ナトリウム)によって構成される活動電位が,灯台(シナプス)に到達して,Ca2+(カルシウム)のチャネルを開かせることで生ずる。

したがって,「痛み」を感じなくさせるには,「土(カリウム)」を掘り出して,落とし穴を作っておいて,活動電位が来ても,「落とし穴」に落ちるようにしておく。

 

てなわけで,

正解は,ノルアドレナリン,セロトニン,モルヒネ(鎮痛薬)でした。

 

丸山先生の御著は,マンガを見るだけでも楽しい。

「弁慶の泣きどころ」は,「向こう脛(すね)」ですね。

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し」は医学的か?

 

 

痛みの伝導には,痛みが過剰にならないようにするため,「痛みの伝導を自分で抑制するというフィードバック機構」が備わっているらしい(詳しくは,上記著書・第8章の下行性抑制系等で説明されている。)

 

COXの形が,「シャチホコ」に似ているという発想は,
「名古屋人」特有のものですね。

COX(シクロオキシゲナーゼ)は,酵素の一種で,発痛物質(プロスタグランジンE)の産生に関与するらしい。そして,COXの作用を抑制するのが,ボルタレン,ロキソニン等の,先の医療事件でも登場してくる鎮痛剤ですね。