以下引用（橋本治『バカになったか，日本人（２０１４）』所収「あ，東大法学部だ」より）

「去るものは日々に疎しで，もう忘れかかっておりますが，百億円以上をカジノでばらまいちゃった某大王製紙の元会長がおりましたがね，あの人は東大の法学部出身なんですよね。
　初め『製紙会社の会長だった人間がやたらの金をギャンブルに注ぎこんだ』という話を聞いた時は，『バカなんだろう』と思った。・・・しばらくしたら，その人物が『創業者一族の御曹司』という話も聞こえてきたので，『やっぱりバカなんだろう』と思ったが，そこに『東大法学部』という履歴がくっついていたので，ちょっとびっくりした。『バカではないらしい』と思って，『どんな顔してんだろう？』と気になった。・・・
　そうして，写真を見た。『結構若いんだな』ということ以外になんにも分からなかった。それがしばらくたって，問題の会長が報道陣のカメラの待ち受ける中を歩いていくニュース映像を見て，『ああ，なるほど，東大法学部だ』と思った。
　それはもうほとんど，花道を行く歌舞伎役者のようで，『あんた，悪いことやったんでしょう！』と言いたくてたまらないはずの報道陣の中を，揺るぎのない顔つきで平然とあるいていく。・・・。『ああ，久しぶりに見た東大法学部』という感じでしたね。
　法学部の学生は，東大の中で『一番頭がいい』ということになっているので，揺らがない。・・・・（以下，略）」