北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

私撰 「若山牧水の歌」

私事と仕事でバタバタしているうちに,
「平昌(ピョンチャン)オリンピック」(2018年2月9日~2月25日)
が終わっていた。

日本選手の活躍には拍手を送りたいが,
北朝鮮の選手団の惨憺たる結果は,痛々しい。
「北朝鮮選手の最高成績はフィギュアスケート・ペアに出場したリョム・テオク、キム・ジュシク組の13位。」,「アイスホッケー女子の南北合同チームには北朝鮮から12人が加わり、うち一度でもベンチ入り(22人)した選手は5人だった。合同チームは5戦全敗し最下位の8位に終わったものの、通算2得点を挙げた。」という(聯合ニュース)

この間,朝日新聞が,「天声人語」(2月12日朝刊)で,「若山牧水」を取り上げていた。
「若山牧水」が死(享年43;死因=肝硬変)の前年(昭和2年),
北朝鮮に位置する名峰「金剛山」にて,多くの歌を残したが,
その名峰も,10年前,韓国人女性が北の兵士に射殺される事件が起きたために,
観光の道は閉ざされ,今や,断崖の此処彼処に「金日成同士万歳」等の標語が刻まれている,
という。

政治が,「自然」を破壊し,「スポーツ」をも萎えさせる国。気の毒な国だ。

気分直しに,若山喜志子選「若山牧水歌集」(岩波文庫)の中から,
少ないながらも,共感できた歌を紹介しておくことにしよう。
共感できる歌が少ないのには,いろいろ理由があって,
①私の語彙力の不足(といっても,死語がやたらと多い)から情景を頭に描けない歌が多いこと,②作者の奔放・破天荒な性格からか,「字余り」がやたらと多いこと,③個人的な趣味の問題として,「酒」を好まないので,「酒絡み」は,即,落選となること等々。

ともあれ,「若山牧水」(1885年(明治18年) – 1928年(昭和3年))は,
われわれの中学時代は,国語の教科書で必ず出てきていた,日本を代表する歌人であり,
教科書の編者は,流石に「目が高く」,教科書に出てくる「定番」は,やはり味わいがある。

 

<教科書に出てくる「定番」>

白鳥(しらとり)は かなしからずや 空の青 海のあをにも染まずただよふ

ともすれば 君口無しになりたまふ 海な眺めそ 海にとられむ

幾山河(いくやまかは)越えさり行かば 寂しさのはてなむ國ぞ 今日も旅ゆく

 

<自然の情感を詠んだ名歌,哀歌>

見てあれば 一葉先ず落ちまた落ちぬ 何おもふとや夕日の大樹(おおき)

木に倚(よ)りて頬(ほお)をよすれば ほのかにも頬に脈うつ 秋木立かな

火の山を越えてふもとの森のなかの温泉(いでゆ)に入れば月の照りぬる

とほり雨 朝のダリアの園に降り 青蛙(あをがへる)などなきいでにけり

とかくして登りつきたる山のごとき巨岩(きょがん)のうへのわれに海青し

水平線が鋸(のこぎり)の刃(は)のごとく見ゆ,太陽の眞下の波のいたましさよ

ぢっと忍んで見て居れば,蟇が啼く,大きな咽喉(のど)をあけて春の日に啼く

松明(たいまつ)をさしかがやかしわが渡る 早瀬の小魚雨降るごとし

たぎりおつる濁りに投げし網のうちに落葉枯葉とをどりけむ鮎(あゆ)

よりあひて眞すぐに立てる青竹の藪のふかみにうぐひす(鶯)の啼く

眼覚むれば雨はやみゐて春の夜のやや寒けきに梟(ふくろう)聞こゆ

暁の春の月夜の寒けきに出でてあゆめば蛙(かはず)なくなり

海鳥の風にさからふ一ならび一羽くづれてみなくづれたり

ししむらの尻のまろみに白き毛を見せつつ鹿の歩み去りしてふ

黒松の老木のうれぞ静かなる風吹けば吹き雨ふれば降り

手繰(たぐり)網(あみ)たぐりて曳(ひ)きて得し魚は皿ひとさらの美しき雑魚(ざこ)

二聲をつづけて啼けば向ひなる山のきぎす(雉子)も二聲を啼く
(注:やまびこですね)

親竹は伏し枝垂(しだ)れつつ若竹は眞直ぐに立ちて雨に打たるる

 

<危ない歌,“痛い”歌>

毒の香(こう)君に焚(た)かせてもろともに死なばや春のかなしき夕べ

おのづから熟(う)みて木(こ)の實(み)も地に墜ちぬ 戀(恋)のきはみはみにいつか來にけむ

山奥にひとり獣の死ぬるよりさびしからずや戀(恋)の終りは

逃れゆく女を追へる大たはけ われぞと知りて眼(め)眩(くら)むごとし

首たかくあげては春のそらあふぎ かなしげに啼(な)く一羽の鵞鳥(がちょう)

けだものはその死處とこしへにひとに見せずと聞きつたへけり

栗の樹のこずゑに栗のなるごとき 寂しき戀を我等(われら)遂(と)げぬる

午前九時やや晴れそむるはつ夏のくもれる朝に眼(め)を瞑(と)ぢてけり
 (注:4月13日午前9時,石川啄木君死す)

わな見にと まだきに行けばおほいなる兎かかり居りわれを見て啼く

あは雪を手にもてるごときあやふさを老いませば君につねに覚ゆる
 (注:「母を憶(おも)ふ歌」)

目覚むれば寝汗しどろにおのが生(よ)のさびしきことをゆめみたるかな

抽匣(ひきだし)の数の多さよ家のうち探せども一銭もなし

三日(みか)ばかりに帰らむ旅を思ひたちてこころ燃ゆれどゆく銭のなき

老人(としより)のよろこぶ顔はありがたし 残りすくなきいのちをもちて

うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山櫻花

夜のふけをぬるきこの湯にひたりつつ出でかねてをればこほろぎ(蟋蟀)のこゑ

空家(あきや)めく古きがなかにすわりたる母の逢ひにけりみじかき夢に

かたくなの母の心をなほしかねつ その子もいつか老いてゆくなる

 

<その他>

われ待つと荒野野邊(のべ)地の停車場の吹雪(ふぶき)のかげに立ちし友はも

疲れはて帰り來たれば珍しきもの見る如くつどふ妻子等

岩かげのわがそばに来てすわりたる犬のひとみに波のうつれり

逢ひてただ微笑(ほほゑ)みかはしうなづかば足りむ逢なり逢はざらめやも
(注:「友をおもふ歌」)