北口雅章法律事務所

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空海は、どのような方法で立体曼荼羅を造顕したか(下)

 

 

 前述のとおり、東寺の立体曼荼羅のうち、少なくとも明王部の五尊(五大明王像)は、空海の頭にあった像容のものを、空海自らが仏師らに指示・伝達したものと考えざるを得ない。

 さて、東寺には、二柱の不動明王が存在する。だが、立体曼荼羅の不動明王(上掲・左)と、大師堂のそれ(上掲・右)を比較した場合、明らかに立体曼荼羅(左)の方が、忿怒の表情がリアルで写実的である。流派を異にする別異の仏師が造顕したといえなくもないが、立体曼荼羅の不動明王における、上の歯を下の下唇の前に出した忿怒の表情は、空海の「強い思い(慈悲の心)」(度し難い衆生をも救済対象しようという強い意欲)が伝わってくる。おそらくは、空海自身が仏師に向かって、「このような表情の忿怒にしてくれ!」といって、実際に自らの形相(ぎょうそう)を演出して、仏師に示したと思われる。そして、仏師に、手早く自らの形相ポーズをスケッチさせ、「違う違う。こうだ!」など言いながら、改めて自らの顔を再び忿怒顔に変容させて見せたりしながら、そのスケッチを添削したものと思われる。

 そして、不動明王以外の明王の顔貌については、相対的に重要度が下がるので、空海が自ら概略をスケッチしたものを手渡しし、そのスケッチをもとに、口頭で詳細を指示しつつ、さらに仏師に詳細なスケッチを描かせ、いろいろ注文を付けたのではないか。例えば、金剛夜叉明王などは、四つ目(正確には五つ目)なので、図示せざるを得ない。

では、各明王のポーズは、どうか?

 

 ポーズ(多面多臂)についても、まずは、空海が思い描くイメージを自らスケッチし、概略の設計図として仏師にわたし、詳細については口頭で指示した上で、仏師に「実施設計図」(詳細図)を描かせ、「ちょっとイメージが違うんだわ。」、「まだ、しっくりこないなぁ」などといって、何度も、修正させたものと思われる。
 ただし、正面像の二臂(肩から手首)と指(手印)を含むポーズについては、空海の思い描くイメージを「正確かつ効率的に」伝えるべく、仏師の面前で、空海自らがポーズをとって、手印、前腕・後腕の位置関係等の詳細をスケッチさせたと思われる。多分。

 

 職業柄、建造物の構造をめぐる裁判も扱う弁護士としては、いろいろ空想が膨らむ。弁護士とて、自ら起案した書面であっても直ぐに完成するわけではなく、裁判所に提出する前までには、何度も文案を修正する。