北口雅章法律事務所

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工藤会トップの死刑破棄判決の行方

工藤会トップの死刑破棄判決(福岡高裁・市川太志裁判長)のニュースをみたとき、正直なところ、エーッ??と思った。福岡高裁の裁判長は、被告人(N総裁)から「生涯この事 後悔するよ」と言われるのを怖れて逃げたのか?とさえも思った。

 

福岡高裁刑事部、工藤会トップの死刑破棄

 

もちろん、全裁判記録を精査していない「外野にして在野」が、福岡高裁判決をとやかく論評する資格などないことは、重々承知している。しかしながら、福岡高裁のN総裁(工藤会トップ)に係る上記死刑破棄判決は、第1審福岡地裁の死刑判決とは結論を大きく異にする。法曹の末席を汚す私としては、「福岡高裁の死刑破棄判決は、経験則に反しているのではないか?」と疑問に思わざるを得ない。具体的には、報道によれば、…

 

 

 公訴事実4件のうち、3件までもが「工藤会トップ(N総裁)とT被告(会長)との共謀」が認定できる、にもかかわらず、「T被告(会長)が、最初の殺害事犯1件に限って、工藤会トップ(N総裁)と相談=共謀していないこと」が、経験則としてありえようか。
 工藤会トップ(N総裁)について、福岡高裁がナンバー2(T会長)との共謀を否定した1件目の殺害事件は、公訴事実4件のうちで、時期的に最も早い、「最初の」公訴事実であり、残る3件(12年・13年・14年と連続する)とは若干(約4年)実行時期が離れている、という側面はある。
 しかしながら、1件目の殺人事件の被害者と、4件目の被害者とは直系血族の関係にあり、十分な連続性を認め得るのであって、わずか4年ばかしの時間的な間隔をもって、上記の経験則がただちに損なわれるとは到底思えない。

 

それ故、福岡「高検」の方では、当然、「検察庁の威信にかけて」上告するであろうと思っていたところ、やはり、上告したようだ。

 

 

では、今後、最高裁での審理の展開として、どのようなことが予想されるか?

 思うに、本件は、「検察庁が威信をかけて」上告する事案であり、暴力団組織・撲滅の悲願や、社会的影響力を考えるならば、最高裁としても、最高検に「忖度」して、検察官出身の最高裁判事が在籍する小法廷に配点することになろう。この観点から、検察官出身の最高裁判事が在籍していない第三小法廷は、配点先の候補から除外される。
 残る二法廷のうち、第二小法廷は、検察官出身の最高裁判事が約2名みえるが、うち岡村和美判事は、弁護士任官である上、法務省経験が長いので、純然たる検察官出身とは言い難い。同様に、第二小法廷所属の三浦守判事も法務省経験が長く「現場経験を積んだ」元検事とは言い難い上、第二小法廷は、長官が審理に加わらないので、4名の最高裁判事の判断で、無期懲役を死刑に覆すには、やや重荷と評価される可能性があるように思われる。
 となれば、論理的には、本件を審理するのに適した裁判体は、第一小法廷(裁判長堺徹・元東京高検検事長)が適任ということになり、上記の社会的な影響を視野に入れると、やはり福岡高裁は破棄されるのではないか(最高裁判事らの心理的負担を考えると、死刑自判よりも差戻の可能性の方が高いように思われる。)。もし仮に私のこの予想が当たったならば、最高裁での事件配点は、「順順に機械的配点」であるといった建前は一挙に崩れ、「神話」に過ぎないことが証明されよう。

 さて、最高裁はどう出るか? 見物だ。