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円空仏の真贋「府中市美術館の責め方」― その後
- 2024-11-22
【これまでの経緯・概要】
府中市美術館が本年3月~5月に開催した美術展(「ほとけの国の美術」)において、「円空仏」として展示された〈聖観音菩薩立像〉が「偽作」ではないか、との疑いがあるため、先のブログで紹介したとおり、私〈円空学会・会員〉の方から、府中市に対し情報公開条例に基づいて、同市(美術館・学芸員)が当該円空仏を「真作」と認めた根拠資料を情報開示するよう請求したところ、紆余曲折を経て、府中市から「聖観音立像に関する調査メモ、写真」、「聖観音立像に関する調査後データ・まとめ」のうちの一部が情報開示された。しかしながら、不公開情報のうち、個人のプライバシーに関わる個人識別情報の記載部分の不開示はやむを得ないにしても、「伝来」部分までも不開示とするのはいかがなものか、と思われた。
そこで、私としては、「伝来」部分の黒塗りの当否について、審査請求を申し立てた。
【その後の経過】
私の審査請求に対しては、先般、審査会を介して、処分庁(府中市長)の弁明書が送られてきた。その弁明書によれば、「伝来」部分の不開示理由について、
「別紙の『伝来』には、条例第7条の個人情報及び条例第7条第3号の事業活動情報に当たる所有権移転に係る経緯が記載されており、当該情報を不開示としている。」
と書かれてあった。
言葉は悪いが、なめとんのか? と思った。
そこで、私としては、年末仕事の合間を縫って、上記弁明に対する反論書を起案し、本日(11月22日)、簡易書留で、府中市の総務管理部の事務局に対しその反論書を送付した。
反論書の一部を公開すると、次のとおり。
「2.処分庁は、別紙「伝来」部分の不開示理由として、①個人情報、及び②「事業活動情報に当たる所有権移転に係る経緯」が記載されている旨を主張する。
しかしながら、このうち①の個人識別情報については、その文言部分だけをマスク(黒塗り)すれば足りることは審査請求書に記載したところである。また、上記②の点については「所有権移転に係る経緯」を開示することが、如何なる意味で「法人等の事業運営上の地位が損なわれるおそれ」があるのか全く理由が示されていない(理由欠如又は理由不備)。意味不明の弁明といわざるを得ない。
「個人識別情報」以外の情報、具体的には、①もと所有者が本件円空仏を所蔵・保管していた区域、②所有権移転の時期(もし記載があれば、その動機)、③所有権移転の方法(有償か無償か)等の「伝来」に係る情報を開示することで、いかなる性格の「事業」(業種・職種は何か。営利性・非営利性の区別如何。公共性の有無如何等。)のいかなる活動に支障が生ずるおそれがあるのかが、およそ理解できない。そもそも、円空仏は、単なる骨董品では断じてなく、元来信仰・礼拝の対象である。本質的・本来的には「闇取引」でもない限り、営利事業の対象物(商品)にはなりえない性格の文化財である。
一方、円空(作者)の事跡・巡錫時期・巡錫区域は概ね特定されており、円空仏の発見に至る経緯も概ね類型化されている。具体例を示しておくと、円空は、天台宗系の修験僧であって、天台系密教寺院で保蔵されていた場合であれば(この場合は、取引対象になりえないが)、明治政府が「廃仏毀釈」政策を断行した際に、当該保蔵寺院によって緊急避難的にその管理する倉庫・祠等に隠され、いつしか隠されていたこと自体が関係者に忘れ去られていたところ、戦後に発見される例が殆どである。また、個人が保蔵していた場合、もと所有者は、円空が巡錫した区域(例えば、岐阜県の神岡村・上宝村等)の在住者又はその出身者か、埼玉県の場合、修験道の家系の関係者が殆どであって、現在の所有者が本件円空仏を取得するに至った経緯、由来を公開することで、その「事業運営上の地位」が脅かされることは、およそありえない。
もし仮に「伝来」部分の公開によって現在の所有者の「事業運営上の地位」が脅威にさらされることがありうるとすれば、それは正に「所有権移転に係る経緯」を開示することよって、本件で問題視されている「円空(作)聖観音菩薩像」の「真正」に疑いが生ずるから、つまり、「贋作ないし模作ではないか、という疑いが生ずること」が懸念されるからに他ならない。より穿った見方をすれば、「伝来」に係る情報を公開すれば、本件円空仏を「真正の円空仏」と誤信し、公開・展示してしまった府中市美術館とその学芸員の見識が疑われる怖れがある、といった他事考慮が一部非公開決定の真の理由ではないかと疑わざるを得ない。「由緒ある」伝来であるならば、その公開によって本件円空仏の価値が高まることはあり得ても、低下することはありえない。もとより、本件円空仏の文化財的価値(真否)の評価に直結する可能性のある「伝来」の記事によって、現在の保管者又は府中市美術館の学芸員に不利益が及ぶ可能性があるとしても、本来「受忍」すべき客観的事実に基づくもので、何ら法的保護に値しない。この意味で、「伝来」部分の非公開決定は、合理的な根拠にもとづくものとは到底いえず、府中市の情報公開条例の趣旨に反するものである。…」
(つづく)
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