北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「佐藤政治学」の思い出 ⑴ ―これが「チキンレース」ですか?― 後編

-前編のつづき-

現在の事態は,
力学的には,アメリカ・北朝鮮間の「チキンレース」が,
南北朝鮮間,あるいは,
日本・北朝鮮間の「チキンレース」へと,

他律的に転化してしまう危険を孕む事態ではないのか。

丸山眞男教授は,かつて東大・政治学の講義で,
「再軍備問題」を考えるに当たっては, 「リアルな状況認識」が必要であると説かれた。
ここで「リアルな状況認識」というのは,「現在(当時)の政府与党が(主体),防衛力を
強化することが(方向性),国内の経済的・政治的・社会的な状況にどういう作用action
を及ぼすか,国際関係にどういう作用を及ぼすか,その作用がいかなる反作用counter-action
としてはねかえってくるか」を考えることである,と。
 そして,丸山教授が教鞭をとられていた当時,日本の脅威として想定されていたのは,
「中ソの侵略の可能性」であって,丸山教授は,その可能性を全く無視してはいけない,と
されつつも,「現在の力の星座(power constellation)のなかで,中ソが日本に出兵すること
は,世界戦争を意味する。そこで,問題は,中ソが世界戦争を賭してまで日本に侵略するか
どうかという状況認識となる」(丸山眞男講義録[第三冊])と述べられる。
しかしながら,丸山教授の前提には,
かつて,ソ連(フルシチョフ首相)が,アメリカとの全面的核戦争を回避すべく,
キューバでの核ミサイル基地の建造を断念したという,あの「キューバ危機」のときのごとく
リーダーによる理性的な自制行動が期待できるという,「リアルな状況認識」があった,
ように思われる。

 丸山教授が,「ミサイル(の開発)と対抗ミサイル(の開発)の悪循環,および軍備を
増強すればするほど安全性が低下するという現代の逆説」
「二十世紀最大のパラドックス」丸山眞男集・第9巻[岩波書店]所収)
を説かれる場面においても,
「安全性が低下」することを理解できる程度の
「理性」(国家レベルでの自己防衛本能)をもつリーダーの存在,
つまり,「チキンレースの前提条件」が,当然の前提として措定されていた,
ように思われる。

 しかしながら,現在の「チキンレース」の「主体」である,
「トランプ」(激情的に非常識行動をとる企業マン;入国禁止・大統領命令事件!)にしろ,
「金正恩」(超自我を欠いた,狂暴な“青二才”)にしろ,
たとえ,各自国が「フライド『チキン』やね。」と揶揄されようが,
人類平和のために,
「核戦争へエスカレートする危機」を回避することこそが「普遍的な正義」だという,
理性的なリーダーシップを発揮することを期待できるのか。

甚だ心もとない,といわざるを得ないであろう。

アメリカの北朝鮮分析サイト「38ノース」は,このほど,北朝鮮が敢行した6回目の核実験(平成29年9月3日実施。北朝鮮側・朝鮮中央テレビは,「水爆に成功」と報じた。)について,核実験の前後に北朝鮮の実験場を撮影した衛星写真を公開し,地すべりなど地形の変動規模が,これまでよりも大きく,爆発規模が広範囲にわたるとの分析を示したとのことである。(TBS系(JNN))

 鈴木達治郎・長崎大教授(原子力工学)によれば,「核分裂爆弾で爆発規模が120キロトンに達するのは難しい。(核融合型の)水爆だった可能性が高い。爆発規模が大きくなれば被害も大きくなる。ミサイルに搭載可能な小型化に成功したとなると,次の課題は多弾頭化だ。北朝鮮の声明では多弾頭化に必要な制御システムの試験も終えたと書いてある。すでに多弾頭化に成功したかもしれない」とのこと(産経新聞)。