北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

裁判文書作成の「いろは」の「い」

岡口基一裁判官の分限裁判における,
林道晴・東京高裁長官・作成名義の「裁判官に対する懲戒申立書」に対する,
岡口裁判官ご自身の主張書面(案)では,

「申立ての理由」の冒頭,
「被申立人は,裁判官であることを他者から認識できる状態(で,ツイッターのアカウントを利用し)」云々という事実記載の部分について,
岡口裁判官は,次のとおり批判されている。

曰く「『裁判官であることを他者から認識できる』というのは,ある事実に対する評価であって,具体的事実そのものではありません。どのような具体的事実に対して,このような評価をしたのかが明らかでない…」
「司法研修所では,司法修習生が,起案に『原告と被告は虚偽表示をした』との記載をすることがありますが,これに対し,司法研修所教官は,これでは具体的な事実の主張とはいえないとして,『原告と被告は合意を仮装した』などと書き直させます。
 申立書等の裁判文書においては,評価や法的主張に先立ち,まず,その基礎となる事実を記載するというのは,裁判文書作成の『いろは』の『い』であるため,司法研修所教官は,司法修習生に対し,この点について,厳しく指導をしています。」と。

 

なるほど,「要件事実マニュアル」の著者らしい,的を得たツッコミで,
司法修習生諸君や,法科大学院生諸君は,このようなところは,よく学んでもらいたい。

この点,私のようなタイプの「弁護教官」に運悪くあたり,添削・指導を仰ぐと,

上記引用部分については,

「申立書等の裁判文書においては,評価や法的主張に先立ち,まず,その基礎となる事実を記載するというのは裁判文書作成の『いろは』の『い』であるため,司法研修所教官は,司法修習生に対し,この点について,厳しく指導をしています。」

という一文の次に,次の一文を付加するように,と指導を受ける。

「このような,裁判文書作成の『いろは』の『い』は,司法研修所教官のご経験のある林道晴・東京高裁長官におかれは,当然のことながら,よ~く,御存知のはずである。」

と。

このような,皮肉まじりの「蛇足」を付けることで,
争訟が,ますますエスカレートすると同時に,ヒートアップするので,
私のようなタイプの弁護士は,裁判所や,相手方の代理人からは,すこぶる評判が悪い。

しかしながら,林長官レベルの民裁教官からは,
当然のことながら,岡口裁判官の上記引用部分の主張に対しては,
次のような再反論が予想される。

事実主張は,すべて事実の記述である必要はない。
 たとえ,『評価や法的主張』であっても『権利自白』の対象にはなる。
 だから,『公知の評価』については,自明のことであるから,
 わざわざ『事実』に置き換えて主張するまでもない。」と。

 

やはり,「法曹特有の」細かい「文章の作法」に難癖をつけるよりも,

端的に,「本件ツイートの如き,些末な一裁判官の私的なつぶやきなど,
およそ裁判所法49条の「裁判官の品位を辱める行状」が想定するレベルの行状
には当たらない。」などと,一蹴すれば,足りるように思う。

若干主張を敷衍するにしても,

「めぐちゃん事件」などと命名される程度に,社会的な関心を喚起した訴訟事件について,
動物愛護法の精神に反する動物虐待行為に与することで,
愛犬家たちから,激しい嫌悪と反発をかった犬の「飼い主」(原告)から,
 敗訴判決を受けたことで,「3か月以上もの間,愛情をもって犬を育てたにもかかわらず,「 愛犬」の返還を余儀なくされた,
「愛犬家」の気持ちを代弁して,

「え? あなた? この犬を捨てたんでしょ?
 3か月も放置しておきながら・・・」

とツイート(私的なつぶやきをし)たことが,
結果として,「飼い主」の感情を逆撫ですることになったとしても,

そのような愛犬家の間では異論の余地のない

「片言隻語」に「勝訴した側」がつけてきた因縁に託けて,東京高裁長官までが,前掲・「片言隻語」に因縁をつけ

2年間の給費制度のもと,その間,国家予算を投入して法曹として養成し,
かつ20年以上のキャリアを積んだ,ベテラン裁判官のキャリア
いわば「国家財産」ともいうべきキャリア(人的資源)をつぶすに値するほどの非違行為(懲戒事由)だといわれるのか????????,
最高裁におかれては,社会常識に照らして,ご賢察いただきたい,

と簡潔に反論した方が,説得力があるように思うがな。

 

 

<出典>岡口基一「分限裁判の記録」
https://okaguchik.hatenablog.com/entry/2018/08/20/085039

 

 平成30年(分)第1号

            主 張 書 面
                           平成30年8月28日
 最高裁判所 御中
                  被申立人   岡   口   基   一           
               目     次   
第1 「裁判官に対する懲戒申立書」の申立ての理由に対する認否
第2 表現行為の特定について
第3 審問期日の指定について
               本     文
第1 「裁判官に対する懲戒申立書」の申立ての理由に対する認否
 1 本件の申立ての理由における事実の主張は,大きく三つの部分に分けることができます。
 一つは,私が,平成30年5月17日頃に,裁判官であることを他者から認識できる状態でツイッターのアカウントを利用したこと,
 一つは,私が,そのアカウントにおいて,同日頃に,犬の返還請求に係る民事訴訟(以下「本件訴訟」といいます。)についてのツイート(以下「本件ツイート」といいます。)をしたこと,
 一つは,本件ツイートを公開して本件訴訟の原告の感情を傷付けたことです。
 以下,この三つの部分についてそれぞれ認否をします。
 2 裁判官であることを他者から認識できる状態におけるツイッターアカウントの利用について
(1) 懲戒申立書の申立ての理由において,「被申立人は,裁判官であることを他者から認識できる状態で,ツイッターのアカウントを利用し,」と記載されている部分です。
 「裁判官であることを他者から認識できる」というのは,ある事実に対する評価であって,具体的事実そのものではありません。どのような具体的事実に対して,このような評価をしたのかが明らかでないため,この部分についての認否は,否認とするほかありません。
(2)  司法研修所では,司法修習生が,起案に「原告と被告は虚偽表示をした」との記載をすることがありますが,これに対し,司法研修所教官は,これでは具体的な事実の主張とはいえないとして,「原告と被告は合意を仮装した」などと書き直させます。
 申立書等の裁判文書においては,評価や法的主張に先立ち,まず,その基礎となる事実を記載するというのは,裁判文書作成の「いろは」の「い」であるため,司法研修所教官は,司法修習生に対し,この点について,厳しく指導をしています。
 3 本件ツイートをしたことについて
 申立ての理由のうち,この部分については,表現行為の特定の点で問題があるため,認否は否認とします。その詳細は,下記第2において主張しますが,この段階では,本件ツイートの内容について確認しておきたいと思います。
 本件ツイートは,「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,」で始まります。この文章の主語が本件訴訟の被告であることは明らかです。公園に放置されていた犬を保護して育てていたのは本件訴訟の被告だからです。
 この文章の主体である本件訴訟の被告に対し,本件訴訟の原告が,名乗り出てきて,「返してください」と話しかけます。この発言の主語が本件訴訟の原告であることも,「もとの飼い主」との記載から明らかです。
 これに対し,本件訴訟の被告は「え?」っと聞き返します。そして,「あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しておきながら・」と反論します。
 ここまでが,いわば「予告編」です。そして,「裁判の結果は・・」との記載は,いわば,予告編から本編に入ることを示しており,その記載の次にあるURLのリンクをクリックし,リンク先の記事を読むことで,本件訴訟の詳細を知ることができるという構造になっています。ちなみに,リンク先の記事は,確定判決についてのものであり,当事者の氏名等の個人情報は一切現れません。
 4 本件ツイートを公開して本件訴訟の原告の感情を傷付けたことについて
「傷付けた」という表現が,法律家が用いる表現としては,やや稚拙な表現であることは否めません。しかし,その点をさておくとしても,この部分についても,否認をせざるを得ません。
 というのは,本件ツイートの公開という事実のうちのどの点がどのような理由で本件訴訟の原告の感情を傷付けたのかが,申立ての理由において明らかでないからです。
ここでも具体的な事実の記載が不足していることを指摘することができます。申立書というものは,被申立人が,その意味を理解して認否することができる程度に,申立ての理由を具体的に記載しなければなりませんが,それは,一般常識でもわかることだと思います。 
 5 本件申立書における結論部分は,「被申立人の上記行為は,裁判所法49条所定の懲戒事由に該当し,懲戒に付するのが相当である」というものですが,この点については,争います。
 申立ての理由に記載された行為のいかなる点が,どのような理由で,裁判所法49条所定の懲戒事由に該当するのかが明らかでないからです。
 いろいろな可能性を想像することはできますが,その「想像」が正しいとは限りません。被申立人が,懲戒理由書を読んでも,どのような理由で懲戒の申立てをされているのかわからないというのは,前代未聞のことだと思いますし,被申立人に対する手続保障という観点からも問題があるといわざるを得ません。
 理由がわからない懲戒申立てがされて,被申立人がその理由がわからないまま懲戒処分がされるのであれば,憲法違反の可能性も生じるというべきです。

                              (「第二」に続く)