北口雅章法律事務所

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「番人の番人」は万人でしょ!

「憲法の『番人の番人』は誰か?」という命題
に対する考察を扱った論考に接した。

村岡啓一教授(白鷗大学)
「統治構造において司法権が果たすべき役割【第四回】」での,
「砂川事件再審請求事件からみた憲法的非常救済手段―『番人の番人』は誰か」
という論考(判例時報2381号134頁以下)である。

砂川事件というのは,アメリカ軍基地の拡張反対運動をしていたデモ隊が,
境界柵を破壊して基地内に侵入したため,日米安保条約に基づく行政協定違反で起訴された,という刑事事件である。第1審の東京地裁(伊達秋雄裁判長)は,米国駐留軍の存在自体が憲法9条違反であって,行政協定違反の処罰規定は憲法31条(適正手続)違反であるとして,無罪判決を下した(いわゆる伊達判決)。昔は,このような気骨あふれる裁判官がみえた。
これに対し,検察側が,直ちに最高裁判所へ跳躍上告し,最高裁大法廷(裁判長・田中耕太郎長官)は,いわゆる統治行為論をもちだして,原地裁判決を破棄差戻した(昭和34年12月16日)ため,差戻審で,被告人の有罪判決が確定した。
ところが,平成25年になって,アメリカ国立公文書館で発見された公開文書で,砂川事件最高裁大法廷・裁判長の田中長官が,駐日大使らに対し,最高裁の合議の経過と裁判の見通し(実質的な全員一致を生み出し,少数意見を回避する方向で評議を導き,12月頃の判決を予定している旨)といった裁判機密をリークしていたことが発覚した。
このため,「最高裁長官めが,ふざけんじゃねえ!!」というわが業界の強い怒りを背に受け,最高裁大法廷自身が「公平な裁判所」を構成していなかったという理由(憲法37条1項違反)で,再審請求を求めたのが砂川事件再審請求事件だ。

再審請求人が,原審の再審請求棄却決定に対し,憲法37条1項違反は「免訴」事由に当たると主張して特別抗告したのに対し,最高裁平成30年7月28日決定は,「三行半」で,特別抗告を棄却した。

しかしながら,近時発覚した田中裁判長(長官)の言動が,
最高裁判事として「不適格」であり,砂川事件判決が「政治的」に処理された,という意味で,「公平な裁判」の外観をぶち壊したことは自明であろう。

ところが,最高裁は,再審「免訴」による被告人の救済の道を閉ざした。
このような「憲法の番人」にあるまじき最高裁の暴走,独善的態度を是正するには,
どのような法的手段が考えられるか?。
これが「憲法の番人の番人は誰か」という問題である。

村岡教授は,「憲法の番人の番人」として,「主権者たる国民」(弾劾裁判所のごとき国の第三者機関による)と,「最高裁自身」とが考えられるが,
結論において,「憲法の『番人の番人』はやはり最高裁が担うという気概を(最高裁が)示すことが,現在求めてられている」と主張される。

何と,虚しい結論であることか!!