北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

「佐藤政治学」の思い出 ⑵ - 日本の存立に改憲は必要か -

今から,ちょうど1ヶ月前(2017-09-06),

 私は,『「佐藤政治学」の思い出 ⑴ 』と題して,大学教養部時代に受講した佐藤誠三郎先生の「政治学」講義に絡めて,アメリカ・北朝鮮の間の「チキンレース」のことをブログに書いた。

上記「思い出」の第二弾として,佐藤先生の「憲法論」を紹介したい。

 佐藤先生の講義は,前掲ブログに書いたとおり,スッポリ忘れてしまったが,学生時代に読んだ佐藤先生の「活字」は,幸いにも,実家の書棚に残っていた。ここで紹介するのは,
『中央公論』昭和57年1月特別号の中から,

「徹底討論 日本の存立に改憲は必要か」
の一部である。

私は,大学生当時,この「徹底討論」を読んで,--片岡鐵哉教授(埼玉大学,2007年逝去)には申し訳ないが--,「(当時の)『東大教授の実力』は凄いなぁ。」,「同じ学者でも,文字どおり“月とスッポン”程度の違いがあるんだなぁ。」と思ったものだ。

もちろん,私個人としては,現行の安保法制や集団的自衛権は憲法違反である,と考えているので,「集団的自衛権だって合憲だ」などという佐藤先生の見解には到底賛同できないし,少なくとも法理論的には,「最高裁が統治行為論を採用し(注:要は,司法判断を回避するということ),国会が自衛隊の合法性を予算議決という形で確認しているのだから,正統的解釈として自衛隊は合憲」だ,という論理は倒錯しており,賛同できない。
 しかしながら,「憲法を改正しなくては新しい国際環境に対応できないというわけではない」,「改憲しなければ日本の防衛はまともにならない」という(片岡教授の)見解は「純粋主義で非現実的」だという佐藤教授の批判は,正しい本質を突いていると思う。

 

佐藤教授の「ディベート」の技術が,片岡教授のそれを圧倒・凌駕していることは,次に抜粋・紹介する部分だけでも明らかであろう。

・・・・(前略)・・・・

佐藤 自衛隊の増強だって,今の憲法のままでも十分できる。できない根拠などありません。集団的自衛権だって合憲だと言えるのですから。
片岡 私はできないと思う。
佐藤 自衛隊の増強ができにくいのは憲法以外の理由があるからです。つまり国民の多くがそれを希望していないからできないのです。憲法があるからできないのではありません。
片岡 いや,憲法があるからです。
佐藤 では憲法のどの条項があるから自衛隊の増強はできないのですか。
片岡 憲法9条の解釈です。
佐藤 どうしてGNPの0.9%程度の現在の自衛隊は合憲で,それ以上は違憲なのですか。私はそんな憲法解釈は理解できない。
片岡 いや,GNPなんかもちろん書いてありませんよ。
佐藤 だから9条があると,現在の自衛隊は合憲だがこれ以上の増強はどうしてできないのか,具体的に言って下さい。
片岡 だって今の政府を見ていれば・・・。
佐藤 今の政治が防衛力の増強にあまり熱心でないのは,政府のリーダーシップや姿勢の問題であって,憲法とは全く関係ない。今の政府が防衛費の増額を渋っているのは,9条があるためではなくて,財政再建で福祉や教育関係の予算も削らなければならない時に,防衛費を急にふやせば国民世論の反対にあうと思うからやらないだけです。
片岡 国民の世論は憲法9条に拘束されている。
佐藤 そんなことはありません。それは逆立ちした議論です。
片岡 では,何ですか。
佐藤 国民の多くが防衛費に消極的なのは,福祉や教育にもっとお金をまわしてほしいと考えているからです。これは日本だけではなくて,西ヨーロッパ諸国の憲法には9条のような条文はありませんが,それでも防衛費をふやすぐらいなら,福祉をふやせと言う声は強い。
片岡 問題は憲法の裁判所的な解釈ではなくて,憲法をこのままにしておくことの政治的意味です。
佐藤 おっしゃる意味がよく解りません。
片岡 現憲法が平和主義の憲法だということです。
佐藤 率直に言って,それは片岡さんの勝手な解釈です。
片岡 だって事実上増強ができないじゃないですか。憲法でできないと書いてあることを,首相が憲法を守りますと言っていれば,できないのは常識ですよ。
佐藤 それはあくまで片岡さんの常識であって,少なくとも私の常識ではない。防衛費の大幅な総額が事実上困難だということから,どうしてその理由は憲法にあると決めつけることができるのか。一方的に断定なさるのではなく,私にも解るようにちゃんと説明して下さい。
片岡 じゃ,説明しましょう。昨年の日米共同声明で,鈴木首相は日本には憲法の宣言があるから,7.5%の防衛費増が最大限だと言っているではないですか。
佐藤 憲法の制限内で最大限の努力をするというわけでしょう。
片岡 最大限というのは何ですか。
佐藤 そんなことは鈴木(善幸)さんに聞いて下さい。憲法の制限内で最大限というのは極めてゆるやかな制限で,現実的にはほとんど無制限と同じようなものだと私は思います。鈴木さんの発言は国内政治上のレトリックでしょう。

・・・・(中略)・・・・

片岡 でも,この憲法を守りますよと首相が言っている間は,佐藤さんがさきほどおっしゃったようなこと(注:「防衛力を現状よりかなり増大」,「防衛計画の大綱を一日も早く実現」を指す)はできないんですよ。
佐藤 それは片岡さんの政治的信念であって,信念は尊重しますけれども,経験科学的な命題ではないです。
片岡 いや,経験的です。
佐藤 繰返しになりますが,どうか私にわかるように説明して下さい。
片岡 鈴木(善幸)内閣が成立した年の暮,防衛予算ができたときに,ブラウンが来日して圧力をかけたことがあったでしょう。私は不愉快だったけれど,奥野法相の例の発言があったものだから,そのあと,鈴木さんは憲法を守りますと発言して,ブラウンの要請を拒否している。
佐藤 だからさっきからお伺いしているように,鈴木内閣が防衛に熱心でないという事実から,どうして憲法改正しなければ防衛力が充実しないという結論が引き出されるのかの説明をお願いしているのです。私の解釈では歴代自民党内閣が防衛をサボってきた理由ははっきりしています。それは国民の反対が怖いからです。それだけのことです。
片岡 いや,国民の反対には憲法が反映されているのです。
佐藤 国民が本当に必要と考えるようになったら,今の憲法のもとで鈴木内閣だって軍備を拡張するでしょう。
片岡 やる気になればできるというなら,鈴木首相に佐藤さんからそうアドヴァイスをしてほしいですね。(笑)
佐藤 私にそんな政治的影響力があるとお考え下さるのは光栄ですが,それは論点が全然違います。

・・・・(後略)・・・・

 

さて,以上の論説からみても,
来る衆議院議員選挙における,自民党,及び「希望の党」の公約にみる改憲論が,
如何に「安直」で,「浅はか」なものであるか,ご理解いただけたと思う。

 

安保法制に異論を唱えた民進党員が「希望の党」に鞍替えすることが,
如何に非常識・不見識であるか。
われわれ国民は,厳しく審判せねばなるまい。

 

 

<余録> 前掲「中央公論」誌上の写真にみる「時は流れた~♪!」

<35年前>                                                 <今>

<35年前>                                                 <今>