北口雅章法律事務所

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「親の体罰禁止」 というが・・・

「体罰」と「懲戒」とは,異次元の問題ではないか。

 

「親の体罰禁止」というが,
一部の親に不届き者がいるからといって,かつまた,その数が増えてきたからといって,
法=国家が,全ての国民の「家庭内」に介入してくることには,
強い違和感を覚える。

我妻榮先生の「親族法」 (有斐閣・法律学全集;初版・昭和36年)を紐解くと,
「第三章 親権」「第二節 親権の内容」として,
「身上監護権」の1つとして,
(親の子に対する)「懲戒権(822条)」の項があり,
監護教育のためには,時に『愛の鞭』を必要とする。
 しかし,その限界は,社会の倫理観念によって定まる。
 これを越える場合は,親権の濫用であるばかりでなく,暴行罪を構成する。」
と述べられている。

我妻先生が,今の社会の実情をみれば,
これを越える場合は,児童虐待防止法14条に違反するばかりでなく,
保護責任者遺棄罪,同致死罪を構成する。」と改訂されるのであろうか。

「愛の鞭」と「体罰」の限界は微妙であるが,

個々の親権者の良識的判断に委ねられるべき性格の問題であって,法律で規制するのはいかがなものか。

「親権者」と「学校の教員」とを比較した場合,
「親」の子に対する「愛情」と「家庭内教育の自由」とその「責任」は,
やはり尊重されるべきであろう。
しかるに,
法務省は,学校教育法11条で,教員に対し,児童・生徒・学生への懲戒権を認める反面,体罰が禁止されるのと同様に,

家庭内も規制しようというのであろうか。

いかにも,安易だ!!

「体罰」や,「暴力」は,一般論としては問題であっても,
それ自体が評価概念であって,言葉が「一人歩き」してしまうことが懸念される。
親であれ,教師であり,その「威厳」を子に対し示すためには,
時に「実力行為を伴う懲戒権」(「愛の鞭」)は必要だと思う。

・・・ってなことを考えていると,
どうしても,アノ最高裁判例を思い出す。

公立小学校の教員が,女子数人を蹴るなどの悪ふざけをした2年生の男子を追い掛けて捕まえ,胸元をつかんで壁に押し当て,大声で叱った行為が,国家賠償法上違法とはいえないとされた事例(最高裁平成21年4月28日第3小法廷判決)だ。

 

さすが,近藤崇晴裁判長。正論だ。
「懲戒」を受けた児童Bは,当日午後10時ころ,自宅で大声で泣き始め,母親に対し,「眼鏡の先生から暴力をされた。」と訴え,その後,児童Bには,「夜中に泣き叫び,食欲が低下するなどの症状が現れ,通学にも支障を生ずるようになり,病院に通院して治療を受けるなどした」との事情があったようだが,そうだとしても,「悪ガキ」に対して,毅然した態度をとった教員Aは賞賛されるべき存在であって,これを咎め立てするなど,教育的指導を萎縮させるようなことがあってはならない,というべきであろう。