北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

最高裁判決の「公開」「透明化」

最高裁が,口頭弁論期日を公表するようになったのは,数年前からだが,
この程,最高裁は,さらに一歩進めて,
口頭弁論期日に弁論・判決が行われる事件について,
「事案の概要」と「原判決の骨子」と「争点の所在」をホームページで広報するようになった。
「裁判の公開原則」からすれば,大変望ましい運用であると思われる。

 

上記運用の第1号の事案について,上記「事案の概要」の文字をクリックして広報内容をみると,・・・

最高裁が口頭弁論を開くときは,
争点に関する上告人の主張を認めて,原判決(高裁判決)を破棄するときであるから,
判決内容は大方予想される。

すなわち,本件事案の場合は,論理必然的に,最高裁は,盗難現場となった「会社の独身寮」の自動車管理方法(施錠,エンジンキーの独身寮内保管)を定める内規があったことを重視して,会社(上告人)には,本件自動車の管理に落ち度はなく,盗難車両が加害車両となる事故が発生しても,会社(上告人)は,法的賠償責任を負わないと判示することになる。

 

結論は,正当だと思うが,そもそも本件は「内規」の有無の問題なんだろうか?
「内規」なんか,有ったって無くたって,車を駐めたら,施錠し,エンジンキーをしかるべき場所に保管して,盗難に遭わないようにするのは,アタリマエのことではないか。
本件自動車の盗難にあった会社(上告人・被告)とその従業員は,いわば被害者的地位にあり,当該窃盗犯人が,盗難車両で引き起こした事故の責任,すなわち,本来,窃盗犯人が負うべき事故の責任について,
これを窃盗犯人に代わって,その「肩代わり」を強いられ,
いわば「窃盗犯人の尻ぬぐい」をさせられたのでは,踏んだり蹴ったりでたまったものではない。
もちろん,例えば,警察官が,拳銃を交番に置き忘れたことで,拳銃を盗まれたり,交番で居眠りしていている間に拳銃を盗まれてしまった場合において,その拳銃が凶器に使われたときは,その使用者(県知事等)は,その拳銃によって惹起された被害について責任を免れないであろう。しかしながら,自動車自体は,拳銃のような「性質上の危険物」ではない。

ところが,原判決をくだした原審・東京高裁判事約3名は,
被害者的地位にある会社に,第三者(窃盗犯人から被害を被った被害者)との関係で,加害者的地位にあることを認め,賠償命令を認めた。この判決の評価は分かれるのかもしれないが,会社(上告人)にとっては,とんだ「トバッチリ」判決であり,少なくとも原審裁判官らの常識的感覚は,私の常識的感覚とは大きくズレる(上告人代理人の弁護士らの感覚も同じ感覚だったと思う。)。盗難車両からの被害にあった被害者(被上告人)においては,気の毒だとは思うが,だからといって,窃盗犯人以外の第3者(本件の場合,被害者的地位にある上告人・会社)に対し,本来,窃盗犯人が負うべき責任をなすりつけるのはいかがなものかと思われる。

このような(私の常識的感覚からは)オカシナ判決を書いた原審裁判官らは,顔と名前を公表すべきだ!,などといったら,裁判官らの反発をかい,憎まれるのであろう。それだから,弁護士は判例評釈を堂々を表立ってかけない立場にある。この点,昔は,大学法学部の教授が,判例評釈等で,アホな判決をボロボロに批判してくれていたので胸のすく思いをしたことが何度もあったが,最近は,そのような小気味よい判例評釈にでくわすことが少なくなってきたように思うし,大学法学部の教授陣もレベルが落ちてきたと聞くがどうなんだろうか。