北口雅章法律事務所

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「三密」の今昔

今や,「三密」といえば,
密閉・密集・密接
すなわち,新型コロナウイルス対策に関する禁忌事項を示す言葉となってしまった。

しかし,

古来,「三密」とは,
弘法大師・空海が多用する真言密教の根本教理である,
身密(一切の形色)・語密(一切の音声)・意密(一切の理)を指す。
総じて,如来に備わった徳を指すとされている。

 

曰く
「遮那は中央に座す
 遮那は阿誰(たれ)の号(な)ぞ
 本(もと) 是れ 我が心王なり
   三密 刹土(せつど)に遍く
 虚空に道場を厳(かぎ)る」

[現代語訳]大日如来(遮那)が中央にまします。
 大日如来とは誰の呼び名か
 本はといえば,われわれの心のこと
 仏の御業(みわざ=三密)は,国土にあまねく,
 虚空に荘厳な浄土の世界を作っている

   ―― 弘法大師・空海「山に遊びて仙を慕う」より(『性霊集 巻第一』所収)

曰く
「それ如来の説法は,必ず文字に藉(よ)る。文字の所在は,六塵その体なり。六塵の本は,法仏(ほうふつ)の三密すなわちこれなり。平等の三密は,法界に遍じて常恒(じょうごう)なり」

[現代語訳]そもそも如来が真理を説くのは,必ず文字によっている。文字のあるところにおいては,見えるもの・聞こえるもの・嗅げるもの・味わえるもの・触れられるもの・考えられるものという六種の対象がその主体である。六種の対象の本質は,宇宙の真理たる仏の身密・語密・意密(三種の神秘的な働き)にほかならない。如来の差別のない三機能は,全世界に満ち満ちており永遠である。

  ―― 弘法大師・空海声字実相義(しょうじじっそうぎ)』より

曰く

「法身の三密は繊芥(せんかい)に入れどもせばからず,
 大虚に亘(わた)れども寛(ひろ)からず。
 瓦石(ぐわしゃく)草木を簡(えら)ばず,人天鬼畜を択(きら)はず,
 いずれの処にか遍ぜざらん,何物をか摂せざらんや。」

[現代語訳]大日如来の三密は,細かい塵くずの中に入っても,そこが狭いということはなく,大きな虚空に広がっても,広すぎるということはない。また,瓦礫・石ころ・草・木などの区別はなく,人・天人・鬼・畜生などを選り分けることもない。あらゆるところに遍満しており,あらゆるものを収めている。

  ―― 弘法大師・空海吽字義より