弁護士のブログBlog
依頼者の意向を踏まえて、「腹腔鏡事件をめぐる医療裁判」についてブログに書いてみようかと思った。この医療裁判で考えさせられ、世間に知らしめたいことは、現在の裁判所が、―医療集中部においても―、著しく劣化し、如何に、医療側に偏った理不尽な判断をするような、能力不足に陥っているか!である。もっとも、ブログ読者にとって、「何が一番参考になるか?」を思いめぐらしたとき、やはり読者自身とその家族が「医療事故に巻き込まれず、医療裁判を避けるためにはどうしたらいいか?」すなわち「医師に殺されないための処方箋」を示すことではないか(私は、本件医療訴訟の患者の場合、早期胃癌であって、「医療水準と術者の経験値に見合った」標準的かつ適切な医療が行われてさえいれば死なずに済んだと考えていることから、厳しい言い方をすれば、本件患者の診療に携わった内科医と外科医に殺されたも同然ではないか、と思っている。)。
それでも、ブログ読者の上記要請に応えるためには、まず、「何があったか?」を思い起こすことから始めなければならない。私が医療裁判を経験した事案は、早期胃癌に対し腹腔鏡下手術が実施された患者(当時79歳・男性)が、術後約1ヶ月後に、縫合不全に起因する腹腔内感染をコントロールできず、肺炎・心不全を併発し、最終的には急性呼吸不全で死亡した事案であった。
医療裁判は、二つの物語から構成される。一つは、純粋「医療の世界の物語」(医療事故に至る経緯と、その後の経過)と、「司法の世界の物語」(弁護士への相談に始まり、提訴を経て、裁判が確定するまで)である。ここで書くことは、あくまでも患者側の一弁護士の視点からではあるが、客観的証拠に基づいて考察した史実(実話)であって創作はない。
本件は、平成29年10月に発生した医療事故で、提訴したのが令和元年8月15日の終戦記念日。その後、昨年(令和6年)4月3日、最高裁第三小法廷から、上告棄却、上告不受理の決定を受けるまでの間、過去に遡って、約5年の記憶をたどることは難しい。訴訟記録と関連記録は、「段ボール一箱分」ほどある。
不条理な弁明に終始した「医師の過失」を裁判所に認めさせたという面では、敗訴ではなかったが(高裁では、適切な術後管理を受ける機会が奪われたことの精神的苦痛に対する慰謝料として500万円が認容されている。)、医師の過失と患者の死亡との因果関係が、非合理・理不尽な理由から、結論において否定されたという面では、実質的には敗訴に等しい。私の場合、「医学については素人」ではあるが、私のバックに控える「医療・医学の専門家」で構成されるブレーンは相当強力な助っ人であると自負しており、「勝って当たり前」の体制・陣営で臨んだつもりが(控訴審では、依頼者を連れて、医療集中部の元裁判官が所属する法律事務所を訪ねて懇請し、共同受任していただいた。)、最後のツメ(因果関係)のところで、なんじゃいな?!という判決であった。
…てなことから書き始めると、とめどなく怒りが込み上げてきて、文章にまとまりがなくなってしまう。「始末記」の如き「物語」を書くことは、ブログでは難しそうだ。このため、このブログでは、この医療事故・医療裁判をめぐって、印象に残ったこと、勉強になり記録しておきたいことを、少しずつ、断片的に書き連ねていくしかない。
「上告理由書兼上告受理申立理由書」では、適切な医療によって、本件患者の死亡結果を回避できた旨の、名誉教授の意見書を付した(当然のことながら、医療について素人の裁判官でも理解できるように、名誉教授の了解のもと、弁護士が表現を分かり易く改訂する。)。だが、残念ながら、この弁護団の真剣・真摯な思いが、最高裁第三小法廷(主任:長嶺安政判事、主任調査官:熊谷大輔判事)には通じなかったとみえる。臨床医学の平面での、事例的な経験側違反は、現在の最高裁では、遺憾ながら「法令の解釈に関する重要な事項」(民訴法318条)に当たらず、「門前払い」の扱いとなっている、
「一般に、腹腔鏡下に幽門側胃切除術と残胃十二指腸吻合術(デルタ吻合)を行った場合、胃十二指腸吻合部は、膵体部の前面頭側(上方)にあり、器械吻合に用いられたステイプラー(縫合具)は吻合部の前壁に十字形に認められる。この吻合が不十分であるか、あるいは、吻合部が縫合不全を起こすと、縫合不全部から漏出した十二指腸液は、重力によって吻合部よりも相対的に低く、上腹部正中に位置する「網嚢底」の領域へ流れ込む。そして、そこからさらに溢れ出た液体は、残胃の前面及び背面を通って、最終的には上腹部の最も低い位置に当たる「左横隔膜下」に流れ込んで貯留する(以上につき【参考図1】参照)」(意見書からの抜粋)
本症例の場合、第2病日から認められた左横隔膜下の液体貯留も顕著であり、左横隔膜下膿瘍であることを容易に診断できる(後出【参考図2A・B】)(意見書からの抜粋)
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